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地の水と米で磨く酒。「廣戸川」に宿る伝統と革新
清らかな湧水と豊かな土が育む天栄村。その恵みを余すことなく活かし、酒造りに情熱を注ぐのが「松崎酒造」です。130年以上の歴史を誇る蔵は、2011年、若き6代目・松崎祐行さんを杜氏として新たな道を歩み始めました。地の水、地の米、そして人の技が響きあう酒造りは、今も静かに進化を続けます。
東日本大震災の年、杜氏を継ぐ決意

福島県天栄村に蔵を構える「松崎酒造」は、1892(明治25)年に酒造免許を得て以来、長くこの地で酒を醸してきた老舗です。地元で愛される普通酒を中心に造ってきましたが、2011年の東日本大震災の年、大きな転機を迎えました。
震災直後に蔵の南部杜氏が病に倒れ、酒造りの継続が危ぶまれたのです。そのとき、蔵を支えたのが、清酒アカデミーで酒造を学んだ6代目の松崎祐行さんでした。
「製造量は多くなかったので、自分でもできるかもしれないと思いました。今思うと怖いもの知らず、ですね」
当時、20代後半。それは、若くして杜氏を継ぐという大きな決断でした。
杜氏就任1年目、在庫が無くなったタイミングだったということもあり、大吟醸を仕込むことに。「山田錦」が主流のなか、あえて天栄村産の酒造好適米「夢の香(かおり)」使ったのは、その後の麹造りに生かすつもりだったから、といいます。
結果、全国新酒鑑評会で「廣戸川 大吟醸」が見事金賞を受賞。その後も受賞歴を重ね、これまでに通算12回金賞受賞という快挙を成し遂げています。

天栄の水と酒米「夢の香」、そして技が生む蔵の個性

酒造りを支えるのは、敷地内に湧く清冽な地下水。酒造湧泉として非常に厳しい基準を満たすこの水は、中硬水のため輪郭のはっきりした辛口の酒になりやすいといいます。マグネシウムやカルシウムといったミネラル分が多いため、酵母の活動が活発になり発酵が進みやすいので、その分、低温で発酵を抑えつつ、お米の甘さを引き出しています。

仕込みに使う酒米は、天栄村・湯本地区や、近隣地域で栽培される「夢の香」。福島県が開発した酒造好適米で、心白が大きく溶けやすいのが特徴です。砕けやすさは丁寧な手仕事でカバーし、力強く、味わい深い酒に仕上げています。
「麹を狙い通りに造り込み、醪(もろみ)を健全に発酵させる、それに尽きると思います。ですが、毎年、その年のお米の特性をつかむまでが難しい。去年は猛暑で米が固かったので、発酵温度を少し下げたんです。蓄積したデータをもとに温度やタイミングを手探りで模索し続けています」
お米の綺麗な甘さと、天栄村の水由来のキレのバランス。地の水と地の米の融合に、人の技が加わることで「廣戸川」の美味しさが完成します。

変わらない想い、進化し続ける蔵

現在「松崎酒造」では、20〜30代の蔵人が中心となり、約10名のチームで酒造りにあたっています。気を抜けない製造現場を一歩出れば、アットホームな雰囲気が漂い、日々笑いが絶えません。

そんな小規模な蔵ながら、2023年には「廣戸川」がG7広島サミットで振る舞われるなど、全国的な知名度は確実に上がっています。需要にあわせ、製造数は年々増加傾向にあるそう。
「年に3回醸造するようになっても、理想的な麹を繰り返し同じように造ることが大切。手造りにこだわる部分があるのと同時に、設備投資も必要です。最近では麹室を新しくし、春秋冬の季節の違いを微調整できるようにしました」
新しいものを取り入れ、さらに技術を磨き上げていく。現状に満足せず、蔵人が一丸となって酒造りを追求しています。
1本に込める想い。「廣戸川」という名の下で

「松崎酒造」にはセカンドブランドがありません。醸すのは、ただひとつの銘柄「廣戸川」だけ。名前は、蔵の近くを流れる釈迦堂川の旧名に由来し、地元とともにあることを示す象徴として、この名にこだわり続けています。
「廣戸川」は、料理に寄り添う穏やかな甘さと滑らかな旨味が特徴。飲み飽きせず、食中酒として楽しめるのが魅力です。祐行さんは「特別な日だけでなく、日常の食卓に寄り添う酒でありたいと思っています」と話してくれました。
1本1本に蔵の想いを託し、品質管理を徹底できる全国の酒販店に卸している「廣戸川」。湧き水のキレ、米の優しい甘さ、そして人の技が調和した味わいは、まさに天栄村が育てた“地の酒”といえる銘酒です。

(DATA)
松崎酒造
住所 福島県岩瀬郡天栄村大字下松本字要谷47-1
電話番号 0248-82-2022
営業時間 9:00~17:00
休日 土・日曜、祝日
交通アクセス 東北自動車道矢吹ICから15分
HP https://matsuzakisyuzo.com/