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地下水で育む理想の味。豆腐店「亀屋食品」の手仕事

天栄村の小さな集落にある「亀屋食品」。工場の扉を開けると、ふわりと大豆のやさしい香りが広がります。1912(大正元)年の創業以来、この店では地下水を使い、豆腐や油揚げを作り続けてきました。3代目の猪越孝さんが目指すのは、皮がやわらかく、ふっくらとした油揚げと、しっかりとした味わいの豆腐。思い描く味に近づけるため、日々微妙な調整を重ねています。厳選した大豆と天栄村の水が支える味は、どのように生まれるのか。その製造の現場を訪ねました。
天栄村の地下水が支える豆腐づくり

この日、工場では油揚げづくりが行われていました。蒸した大豆の香りが立ちのぼる作業場で、手際よく工程を進めていくのは3代目のご主人・猪越さん。福島県郡山市の豆腐工場で経験を積んだ後、40年ほど前から家業を担っています。
猪越さんに豆腐にとって何が最も大切かと尋ねると、即座に答えてくれました。「水と大豆が一番大事」。その言葉どおり、この工場では敷地内に湧く地下水だけを使っています。
「冬は温かく、夏は冷たい。冬でも意外と手はかじかまないんですよ」と話してくれたのは奥様。地下水ならではの安定した水温が、作業を支えています。30年ほど前に地下114mまで深く掘り直したことで水質がさらに安定し、東日本大震災の際も水質に変化はなかったといいます。
大豆は狙った味に仕上げるために、商品ごとに品種をブレンド。甘みのある県内産の白大豆や秋田県産の青大豆、米国産の大豆など、最適な配合を模索し、今の割合にたどり着いたそうです。天栄村の水は、クセのない軟水で、大豆の味を素直に引き出してくれるといいます。
ふっくらを目指して。油揚げづくりの工程

取材の日は、油揚げを作る日でした。「亀屋食品」では、月・水・金に豆腐を、それ以外の日は油揚げを作ります。1日に1000枚以上を仕上げるというのだから、工場は休む間もありません。

まず、大豆を水に浸けることから始まります。油揚げづくりでは大豆の芯まで水を吸わせる必要があるため、冬はぬるま湯を使い、約8時間かけてゆっくりと浸水させます。その後、粉砕・加熱し、搾汁しておからと豆乳に分けます。搾りたての豆乳を一口飲ませてもらうと、温かく、香りは穏やか。搾りたてならではの新鮮さが伝わってきます。
豆乳ににがりを加え凝固させます。ここで大切なのが、攪拌の回数です。「2回。それ以上でも以下でもダメなんです」と猪越さん。その言葉に、迷いはありませんでした。

凝固したら一旦混ぜ崩します。そして、崩した液体に水を加え、気泡を含ませます。それが“ふっくら”の決め手になるのだそうです。型に流し込んで落ち着かせた後は、圧力をかけ、ゆっくりと水分を抜き1.5cmの厚さまでプレスします。油揚げサイズに切り分けたら、いよいよフライヤーへ。

大豆白絞油で満たした巨大なフライヤーを油揚げがゆっくりと泳ぐように流れていきます。120度のゾーンで中心まで熱が通り、180度のゾーンで表面はカラッとした仕上がりに。夏には汗が滴るほどの熱気の中で、均一に揚がるよう専用の棒でひっくり返し続けます。
できたてをひとつ、いただきました。ふわっと軽い。皮は薄くて、ごわつきがない。中のキメが驚くほど細かい。「厚みがあって、皮がやわらかくて、ふっくら」という理想の油揚げが、そこにありました。
毎日違う豆腐と向き合う職人の仕事

「豆腐は毎日状態が違う。にがりを入れたときの色も違うし、凝固の仕方も違う。へらを入れすぎても、入れなすぎてもダメ。気候が全部影響する」と猪越さんは話します。気温、湿度、季節。外の変化がそのまま工場の中に入り込んでくる。だからこそ、毎日の観察と調整が欠かせません。
攪拌の回数やタイミング、にがりの量——数値だけでは測れない微細な変化を、長年の経験と感覚で読み取りながら、「その日のベスト」に近づけていく。先代のやり方を踏襲するだけでなく、同業者に何度も話を聞きに行き、さまざまな作り方を試し比べ、自分なりの答えを探す。
猪越さんが「試行錯誤」と呼ぶその積み重ねが、今の「亀屋食品」の味を作っています。「毎日理想の豆腐・油揚げに近づけるよう、努力を続けています」という言葉は、飾り気のない、職人の正直な宣言でした。

定番の豆腐と、新しい味への挑戦

「やわらかい、と言われると少しくやしい。“しっかりしたやつ”を意識しています」と猪越さん。お店の定番は昔ながらの絹豆腐ともめん豆腐です。さらに「他にはない豆腐を作りたい」と生み出した「もめん青ばた豆腐」も、指名買いの多い逸品。
青ばた豆腐は、秋田産の青大豆と甘みのある県内産白大豆をブレンドしたもので、青大豆の豆腐と出会ったことをきっかけに試作を重ね生まれた豆腐。まずはそのまま、ひと口食べてみるのがおすすめです。

天栄村の水とともに続く豆腐づくり

「天栄村の水は違う。臭さがない。地下水じゃないと、うちの豆腐は作れない。そういった意味では、恵まれた場所でやっていると思う」と猪越さんは話します。「風土で作っている、というところはある。豆腐は毎日違うものだから」。その言葉には、この土地とともに歩んできた職人の誇りが滲んでいました。
地下水は今日も静かに湧き続け、この工場の手仕事を支えています。豆腐は毎日違う。だからこそ、毎日向き合う。その繰り返しの中に、「亀屋食品」の美味しさが宿っているのです。

(DATA)
亀屋食品
住所 福島県岩瀬郡天栄村下松本要谷後15
電話番号 0248-82-2760
営業時間 11:00〜17:00
休日 日曜
交通アクセス 東北自動車道矢吹ICから15分
※豆腐の購入は工場でも可能ですが、作業状況によって対応できない場合があります。「道の駅 季の里天栄」での購入がおすすめです。