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日々のなかにある甘さ。天栄村「山口菓子店」のメインビジュアル

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2026.06.05

特集

日々のなかにある甘さ。天栄村「山口菓子店」

天栄村にある「山口菓子店」には、ずっと変わらずに作られてきた菓子があります。「しおがま」と呼ばれるその味は、地元の人にとっては当たり前の存在です。

特別なものではない。けれど、長く静かに親しまれてきた味。

ご主人の山口忠栄さんは、数十年ものあいだその菓子を作り続けてきました。
水や季節の移ろいのなかで、同じように繰り返されてきた仕事。その積み重ねの先にあるものを、静かにたどってみました。

この土地にずっとある菓子

「山口菓子店」の創業は1959年頃。もとは山口さんのお父さんが始めた店で、忠栄さんは東京の菓子店で修行を積んだ後、平成元年に家業に入りました。先代が亡くなってからは一人で製造を担い、販売は奥さんが受け持っています。

この店の名物は、創業時から変わらない味の「しおがま」。米粉、砂糖、自家製梅干しの赤ジソを混ぜて型に押し固め、こしあんを挟んだ落雁風の押菓子です。シソの香りとほどよい塩気、あんこの甘さが重なる、どこか懐かしい、素朴さが魅力です。

「地元の人にとっては、ずっとある当たり前のもの」。取材に同行した村役場の方がそう話してくれました。けれど、この菓子を関東のイベントに持っていくと飛ぶように売れるといいます。当たり前であることと、特別であること。その両方を、しおがまは持っています。

しおがまができるまで

まず、自家製梅干しの赤ジソを刻むところから始まります。梅干しは通常よりも少ししょっぱめ。冬場は乾燥しているため、梅のつけ汁も加えますが、夏は入れません。この小さな加減が、季節によって変わる生地の状態を整えます。

米粉と砂糖、刻んだ赤ジソを手で混ぜていくと、シソの酸味のある香りが周囲に漂い、生地が優しいピンク色に染まっていきます。

型に混ぜ合わせた粉を詰めたら、こしあんを重ねます。目分量でとり分けているように見えて、均一に入れていくのは、長年の手仕事で身につけた感覚です。最後に粉をかぶせて押し固め、棒状に切り分けて完成。一個ずつ食べたい人のために、くり型に成形した個包装タイプも作っています。

口に入れると、シソの香りがふわりと広がります。口どけは優しくなめらか。こしあんはしっかりとした甘さながらくどさがなく、ほのかな塩気と絶妙なバランスです。加える砂糖が少なすぎると浸透圧の関係で生地がべちゃっとしてしまうのだそう。かといって甘すぎてもよくない。受け継がれた味わいには見えない計算があります。

日々に重なる菓子づくり

山口さんの一日は早く、忙しい時期で朝4時半から作業が始まります。しおがまを作る日、別の菓子を作る日と、その日その日で段取りを組んでいく。

ハードな毎日に体のことを心配すると、少しおどけて「まだ若いから」と返ってきました。一見寡黙な職人という印象なのに、こういうときにふと見せる表情がお茶目で愛嬌があります。

こだわりは何か、と聞けば「心をこめること」と答えます。職人技が必要な場面を尋ねると「長年やっているから説明のしようがない」「誰でもできるよ」と笑う。けれど実際には、季節によって生地の固さは変わり、梅のつけ汁の量もそのたびに調整している。「生地がやわらかくなってきたな。春だな」と感じながら、その日の生地と向き合っている。その言葉が謙遜なのか、本当にそう思っているのか。どちらにしても、その手は今日も、迷いなく動き続けています。

ラインナップにはしおがまのほか、もちっとした食感とくるみの存在感が楽しい「ゆべし」、修行時代のレシピを守る「栗まんじゅう」、ひそかなファンが多い「チョコレート饅頭」などが並びます。そして、山口さん自身が「一番好きなお菓子」と話すのが、「バターどら焼き」。「俺がバター入りが好きだからだよ」。好きだから作る。それ以上の理由は、たぶん必要ありません。

水とともにある、この土地の味

菓子づくりに使う水は、天栄村の水道水です。天栄村の水はお菓子の味に影響していると思いますか、と問いかけると「ここしか知らないから分からない」という答えが返ってきました。

天栄村で好きなものといえば、自然のこと、と山口さんは言います。近くにある大方寺のしだれ桜が綺麗で、家の敷地にも桜があると嬉しそうに話してくれました。桜が終われば柏餅の季節、そして草餅へ。和菓子の暦と、この土地の四季が重なるように流れていきます。

先代から引き継いだレシピを、山口さんは一度も変えたことがないそう。「変えようと思ったことがない。これが一番いいと思っているし、これしかない」。派手さはない。けれど、確かにそこにある味。天栄村の水と季節のなかで、今日もしおがまは作られています。

(DATA)
山口菓子店
住所 福島県岩瀬郡天栄村大里宮下56-1
電話番号 0248-82-2579
営業時間 4〜10月9:00~18:30、11〜3月末9:00~18:00
休日 不定休
交通アクセス 東北自動車道矢吹ICから10分

ACCESS 天栄村までの道のり