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焼きたての香りの先にあるもの。天栄村「菓子処 日の出屋」
天栄村にある「菓子処 日の出屋」は、和菓子と洋菓子を扱う店。地域の暮らしを支える”パン屋”としての顔も持っています。朝早くから動き出す工場では、あんこを炊く湯気と、小麦の焼き上がる香りが行き交います。慌ただしくも、どこか整った空気。人の動きが絶えないなかで、作業は迷いなく進む、そんな現場でした。
地域に根づく店「菓子処 日の出屋」

「菓子処 日の出屋」の創業は70年以上前。現社長のお父様である初代が店を開いたのは、当時の天栄村にパン屋や菓子屋がほとんどなかったからだといいます。「みんなに食べてほしい」——その思いが出発点でした。天栄村では規模の大きな店として知られ、福島県郡山市にも支店を構えています。
この店のパンには、地域との深いつながりがあります。天栄村の小中学校、そして隣の須賀川市の小中学校の給食パンも、ここで焼かれています。天栄村の子どもたちの多くは、企業訪問でこの工場を訪れます。給食で口にし、工場で製造を目にし、大人になっても買いに来る。「日の出屋」のパンは、この土地の人々の記憶に溶け込んでいる存在です。
工場を行き来する現場のリズム

取材に応じてくれたのは、工場長の高橋さん。パン屋や菓子屋での修行を経て、震災後からこの店で働いて15年になります。取材の日は給食パンがあったこともあり、朝5時から作業がスタートしていました。
まず案内されたのは、あんこの製造現場です。北海道十勝産のあずきを茹で、しぼり袋に移して圧力をかけ水分を抜く。ぱさぱさになったものに水と砂糖を加えて攪拌し、ふかして仕上げる。圧搾機への移し替えや攪拌機への移動は人の手で行われます。このあんこは、パンに使われるだけでなく、店の名物「酒まんじゅう」にも欠かせない素材です。


あずきの様子を見届けると、高橋さんは道を隔てた別棟のパン工房へと走ります。製造現場に入った瞬間、ふんわりと小麦の香りが広がりました。発酵させた生地を一個分の大きさに手早く切り分けていきます。秤のおもりがゆっくり上がる、その動きで重さを確かめながら、迷いのない手さばきで次々と作業を進めていく。あんこの現場と、パンの工房。異なる二つの工程が、同時進行で動いています。
水と発酵が引き出すパンの香り

「パンはスピードが大事」と高橋さんは言います。発酵が進みすぎると生地は固くなる。状態を見極め、素早く動く。その判断の積み重ねが、パンの仕上がりを左右します。
一番気を入れるのは「生地を作るとき」だといいます。その日の気候や温度、湿度によって発酵の状態は変わる。冬は発酵がゆっくり進むぶん、ミキシングを長くかけられる。細かい気泡が入り、口どけのいいパンになる。夏は逆に発酵が早いため、氷を生地に混ぜながら温度を抑える。季節ごと、その日その日に、最適な答えを探し続ける仕事です。
「日の出屋」の製造現場で毎日大量に使われる水は、天栄村の上水道。天栄村では全ての上水道が原生林由来の湧水や地下水で賄われています。水の話になると、高橋さんははっきりと答えてくれました。「天栄村の水で焼いたパンは全然違います。釜を開けた瞬間に分かるんです。あ、余計なものがない、って。それまで当たり前だと思っていた塩素臭なんかが、ここにはない。純粋に小麦の香りだけがふわりと漂ってくる」。
「パンを釜から出した時が一番好きな瞬間」という言葉に、職人の喜びがにじんでいました。

焼きたてのパンと、もう一つの名物

「日の出屋」の食パンは、小麦粉、砂糖、塩、マーガリン、イースト、水だけのシンプルな配合。保存料は使っていません。耳はしっかりしているけれど薄く、きめが細かく、口のなかでねちょつかない。小麦の香りが心地よく広がる、毎日食べても飽きない味です。土日は140本が完売することも多く、午前中で売り切れることもあるため、電話での取り置きがおすすめです。

そしてもう一つ、この店には欠かせない名物があります。「酒まんじゅう」です。
名前は「まんじゅう」ですが、実態はふわふわの蒸しパン。酒ダネを混ぜた中種で作る生地は、肉まんほどの大きさにふっくらと仕上がります。白はこしあん、茶色はつぶあん。生地はやわらかくふんわりとして、自家製あんこの甘さがありながらくどさはなく、酒の香りが後から静かに漂います。できたての温かいうちに食べるのもよし、冷めてから香りを楽しむのもよし。
天栄村や近隣地域では、だれもが一度は口にしたことのある、馴染み深い味。お土産にする人もいますが、日常のおやつとして買っていく人が多いといいます。一度に買う量が多いのも、この地域ならではの光景です。パンが毎日の食卓に寄り添うものなら、酒まんじゅうはこの土地の人々の記憶に寄り添うもの。どちらも「日の出屋」が長く守り続けてきた、地域の味です。
日常のなかにある、この土地の味

「先代の方針を引き継いで、パンの種類を絞っている」と高橋さんは話します。たくさんの種類を並べるのではなく、生活の一部になれるものを、丁寧に作り続ける。その姿勢は、創業当時の「みんなに食べてほしい」という思いと、まっすぐにつながっています。
焼き上がったパンを釜から出すパートスタッフが「いい感じー」と声を上げる。その言葉が、工場の空気をやわらかくほぐしていました。長く働く人たちが、毎日の仕事を積み重ねてきた場所です。天栄村の朝は今日も、この工場の香りとともに始まります。

(DATA)
菓子処 日の出屋
住所 福島県岩瀬郡天栄村大字飯豊高崎22-1
電話番号 0248-83-2100
営業時間 8:00〜19:00
休日 なし
交通アクセス 東北自動車道矢吹ICから10分
HP https://hinodeya-kashi.com/
※食パンは数量限定のため、お早めに。電話での取り置きがおすすめです。